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朝ぼらけタイガー

読んだ本のレビューが中心です。ランニングなどその他趣味の話も。NPOや自治体など「公益組織」向けのコンサルティングが本業です。元はwebディレクター。

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レビュー:「プレーンソング」世界は猫のお礼でできている。

11:書評 小説
弟に借りた本です。
池澤夏樹の「スティル・ライフ」と一緒に僕が好きそうな小説ということでオススメされて借りてきたものです。
先に読んだスティル・ライフの方は若干合わなかったなーと思ってたんですが、こっちは良い感じに楽しめた。

プレーンソング。

タイトルの「プレーンソング」、読み終わってみてなんともこれ以上にこの小説を表す言葉もないだろうなと思う。
Plain Song。平坦な歌。辞書で調べてみたところ、無伴奏単旋律聖歌をこう呼ぶらしいですね。著者が聖歌のことを意識していたかどうかはよく分かりませんが、あんまり関係ないんでしょうね。単純に無伴奏の平坦な歌、というところの意味合いが強そうです。
 
この小説が無伴奏で平坦であるというのは、いわゆる筋らしい筋がないから。
著者の保坂和志さんの書く小説はその手の作品が多いらしいですね。
最高です。筋のない小説大好き。

何も起こらない無敵の青春とその思い出の残り方。

この小説は何も起こらない。ただひたすらに主人公と周囲の友人たちとの生活や、やりとりや、猫との距離感が描かれている。そういうものと過ごす時間がただ過ぎて、過ぎていく。何も起こらない小説が苦手という人もいるけど、この無為に無敵な時間の過ごし方を知っている方は多いんじゃないだろうか。
主人公の周りにいる人物たちはそれぞれにひと癖あるので、身近な人物に重ね合わせる類のものではないけど、それでも彼らが主人公と交わすやりとりからは懐かしさを感じる。青春時代には中には鮮烈な出来事やその思い出もあるかもしれない。でも大半は、何がどう印象に残っているというわけでもないのに、全体として雰囲気として、残るものあるような気がする。そういうばくっとしたものがこの小説にはすごく表れている。
特に、最後みんなで海に浮かびながら交わす会話の描写は秀逸。いつもの通り脈絡なくあっちにいったりこっちに言ったりする話を、15ページ以上も続けるんだけど、誰が何をしゃべっているかもよく分からない。内容もとくに頭には残らない。でも、みんなで海に浮かんでずーっとしゃべってた、というところは印象に残るわけで。青春時代の思い出の残り方。その描き方としてはなかなかこれ以上の書き方はないんじゃないか。

80年代の若者のズレ感。

そんな若者たちのしばらくの生活の様子が描かれているんだけど、主人公含め誰一人生活の素性は明らかにならない。いったいどうやって生活してるんだろうとか思いますが、はっきりとは描かれないし、描かないところに意味があるんでしょう。写真であったり、映画であったり、主人公の周囲には芸術畑っぽい人間が複数登場する。ただ、あくまで「っぽい」。ぽいというか、片足突っ込んはいるけど、それ以上踏み込むつもりはないというような中途半端な立ち位置。主人公の会社の同僚については同僚ではあっても、仕事上の話は一切なくひたすらに競馬に終始する。この登場人物たちの界隈はまぁ多少独特というか特別な集団ではあるんだろうけど、それでもある程度は時代を表しているんでしょうね。
解説によるとこの小説の舞台は1986年の冬から夏にかけて、らしい。僕は1986年の6月生まれなので、ちょうど生まれた頃です。時代背景が明確には浮かばないですが、経済的には高度経済成長もほぼ終わりかけバブルの手前、政治状況的には学生運動からは一時代経ち、でも学生運動世代が親になる世代でもない。いわゆる不良とかそういうのも目立った時代なんだろうけど、こういうふわふわした人も多かったんだろうとか、いろいろ想像します。社会的、経済的、政治的ふわふわ。それを「ズレ」と言ってしまうのは失礼なのかもしれないけどね。その時代に生まれその後育った世代としては、無自覚にズレて居ることのできた時代は少しうらやましく感じたりもする。
 
同じ「何も起こらない小説」でも、自分の感覚により近いのは、2000年前後まで時代の進んだ吉田修一の「パーク・ライフ」。何も起こらずに過ぎていく微妙な時間が描かれることは同じだけど、それでもパーク・ライフの主人公の男女はもう少し仕事が生活に溶け込んでいる。その変化が良いものなのか悪いものなのかは分からないですが、20年の変化は確かにある。僕が働き始めたのはちょうど2010年なので、またちょっと違ってきているのかなぁ。この時代を切り取る小説、誰か書いてないのかな。

ながーい文章。

保坂和志、この人の文章はとても長い。1ページが2つか3つの文章だけで構成されてるところもあるぐらい。最初だいぶ違和感があったけど、慣れてくるとだんだん病みつきになる。まどろっこしくて。
いくつかおもしろくて良いのあったんですが、やはりとびきりなのは裏のあらすじにも引用されてるこれ。

「うっかり動作を中断しいてしまったその瞬間の子猫の頭のカラッポがそのまま顔と何よりも真ん丸の瞳にあらわれてしまい、世界もつられてうっかり時間の流れるのを忘れてしまったようになる」

長さとしては大したことない方ですが、やっぱすごいやこれ。なんでこんなの書けるんだ。「夏の星座にぶら下がって上から花火を見下ろして」ぐらいびっくりした。この方の小説はだいたい猫が出てくるらしいので、他にも色々ありそうで楽しみになりますね。ちょっと読んでみよう。

以上。

ということで。他の作品も読んでみようかなと思える小説家と出会えると嬉しいですね。積ん読たまりすぎて困ってますけども。

おまけ。今読んでる本と読み終わった本。

<読んでる本>

NPOのためのマーケティング講座」長浜洋二

「脳には妙なクセがある」池谷裕二

「魚食の民」長崎福三

はてしない物語ミヒャエル・エンデ(2014/10/08~)

<読み終わった本>

「論理と感性は相反しない」山崎ナオコーラ

 

 

プレーンソング (中公文庫)

プレーンソング (中公文庫)