朝ぼらけタイガー

読んだ本のレビューが中心です。ランニングなどその他趣味の話も。NPOや自治体など「公益組織」向けのコンサルティングが本業です。元はwebディレクター。

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つくば市で「子育てde国際交流 in Ibaraki」に参加してきました

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本日はつくば市役所で開催された「子育てde国際交流 in Ibaraki」というイベントに出席してきました。

 

このイベントはつくば市NPO法人kosodateはぐはぐが主催するもので、kosodateはぐはぐが事業として実施しているホームスタートというイギリス発祥の家庭訪問型の子育て支援活動のグローバルイベントの一貫です。kosodateはぐはぐさんを少しご支援させていただいた縁で招待いただきました。本当にありがとうござました。

 

 

イベントの中身

  1. kosodateはぐはぐ代表前島さんからの挨拶、つくば市長挨拶
  2. イギリスとスリランカホームスタート活動の代表からそれぞれの国の子育てに関する状況と活動の様子の紹介
  3. つくば市保健師の方からつくばの子育て環境についてのお話
  4. つくばで子育て中の外国人ママからのお話(スリランカ、イタリア、チェコから)
  5. 会場からの質疑応答を交えてのディスカッション
  6. 会場を変えて市役所内レストランで軽食をいただきながら交流会

と盛り沢山な内容でした。

 

詳細はこちら。(Facebook

子育てde国際交流 in Ibaraki

 

ホームスタートは日本全国でも地域の事情に合わせた活動をしていることが特徴と聞いていましたが、グローバルな活動はなおさらですね。国によって子育て中の親子が直面する課題も、マクロレベルで国が課題としている指標も違ったりするので、それを受けての活動も色々のようです。

 

ホームスタートジャパンのHPはこちら。

www.homestartjapan.org

 

つくばでホームスタート活動をしているkosodateはぐはぐのHPはこちら。

www.geocities.jp

 

イギリスとスリランカの話

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イギリス

イギリスは出生率が人口維持水準より低い1.81であることや、出産年齢が上がってきている(30.4歳)こと、核家族化が進み子育て中の親が孤立しがちであることなど日本の子育ての環境と似ているところも多いようです。

 

日本と異なる点としては、新生児の28.2%が英国以外で生まれた母親による出産(つまり外国人ママ)であり、過去最高を更新してまだ伸びているという状況にあること。

 

この状況の中でホームスタート活動として言葉の壁を感じている親をいかに支えるかということは非常に大事なポイントになっているようです。

 

また、家庭訪問型の子育て支援であるホームスタートは元々出産後のサポートとして始まっていますが、近年の学術的な研究の結果を受けて、妊娠期からの支援に幅を広げていたり特に乳児期までの愛着という面を重視したサポートに力を入れていること、妊娠前や学齢期などホームスタートのカバー範囲の「前後の期間」をサポートする各プレーヤーとの連携、あるいは同じ期間でも他のプロフェッショナルとの連携などをとても意識された活動をしている点は非常に先進的で、さすが発祥の地といったところでした。

 

スリランカ

スリランカは日本やイギリスとは異なり、人口が維持から増えていくという水準にある国です。現在約2200万人の人口が2031年には2300万人になりさらに伸びていくという見込みとのことなので、すごい勢いです。これに伴い、課題として単純にホームスタート活動としての人員その他のリソースが足りなくなるという点を挙げていました。

 

ホームスタート活動の特徴としては国の行政との連携がかなり強固であるということ。子育て支援については出産前の時期から、カップルのためのケア→妊娠前ケア→妊婦ケア→分娩時のケア→出産後のケア→家族計画とリプロダクティブ・ヘルス→カップルのためのケア、と一連の支援がサイクルとして意識した設計がされている点はなるほどと思いました。一方で母子の栄養状態や安全でない妊娠中絶についてが課題に上がっていたり、国の指標として妊娠死亡率の減少が掲げられているなど公衆衛生面の話題が多かったことも印象的でした。

 

「話を聞く」のが一番大事

国の状況により様々なホームスタート活動ですが、それでもいちばん大事な要素は共通しているという点もイベントを通じて感じました。それは「話を聞く」ということ。

 

イギリスの代表の方が繰り返し繰り返し「Listening」とおっしゃられていたことはとても印象的でした。

 

わずかな時間だとしても話をする相手がいるということ、話を聞いてくれる存在がいるということはとても大切なことです。これは子育て支援だけでなく他の対人支援分野についても言えることです。

 

私は児童養護施設での学習支援ボランティアをやってきましたが、その活動において例え1週間に一度たったの1時間だとしても「自分だけの話を聞きにきてくれる人がいる」ということがなかなか大人を独り占めできない施設の子どもたちにとっていかに勇気づけられることであるかを感じていました。特に孤立して子育てという困難なことをしている親にとってホームスタートの活動というのはそういう心の支えになりうる時間なのだと思います。

 

つくばで子育てをする外国人ママの話とディスカッション

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後半の市内の外国人ママによる実体験と会場を交えてのディスカッションも面白かったです。

 

つくばや日本で出産や子育てをする中で感じたこと、受けた支援、困難だと感じていることなどざっくばらんな話が語られていました。

 

市内で子育て中の親によるピアサポートの活動を運営されているという方から「英語は充分でないかもしれないけれど、そして一時的なものになるかもしれないけれど、それでも子育て中の母親が集まれるよという場所があったとしたらそれは役に立つか?また、それはどのような場所に発信すれば伝わるか?」という質問に対して、「集まれる場所はありがたい。ただ、支援がなくて困っているのは母親だけではなく、10代以上で日本語が苦手な子どもも居場所がないので彼ら彼女らの居場所もあると有り難い」という声や、「つくばにも外国人の親たちによるFacebookグループがありそこで情報交換はされている。困っていることは集まる場所や講師がないこと」という会話がなされていました。

 

比較的外国人が多いつくばですら支援が足りていない状況なので、日本全体で考えるとまだまだ厳しそうですね。

 

外国人の親が増えているイギリスの代表からは「外国人ママたち自身がボランティアとしてホームスタート活動に参加していくことが重要」という先をいく先輩国としてのアドバイスもありました。

 

 

 

元々私が現在のNPO支援のコンサルタントという仕事にたどり着いたはっきりとしたきっかけは大学のころの児童養護施設でのボランティア活動やボランティアコーディネート活動ですし、私のそうした活動の舞台であったのはつくば市です。今回こうしてつくばのNPOに関わる機会をいただいたことやつくばの地で個人的に思い入れの深い子育て支援の活動について改めて考えるきっかけをいただけたのは非常にありがたいことでした。

 

代表の前島さんを始め運営の皆さま本当にお疲れ様でした!

レビュー:『ルポ 児童相談所』熱さを丁寧な取材に込めた真摯なルポルタージュ

金融のプロとして働く傍らNPO法人Living in Peaceを設立し日本の社会的養護下の子ども支援活動をしている慎さんによる著作。
国内の子ども支援関係者にはぜひとも読んで欲しい一冊です。
 

 丁寧で、真摯で、冷静な取材姿勢

本書は著者である慎さん自身が全国約十ヶ所の児童相談所を訪問し、100人以上の関係者インタビューを実施し、さらには二つの一時保護所に住み込みをして書かれた本です。慎さんは以前に児童養護施設でも住み込みを行っています。取材対象を理解するには自分自身がその環境に身を置くべきというのは言葉で言うのはとても簡単ですし、納得度も高いですが、それを実行に移すのはなかなかできることではありません。丁寧で真摯な姿勢にいつも頭が下がります。
 
本書ではもちろん定量的な調査データも使用されていますが、福祉等の対人支援の問題というのはデータには表れにくい難しさや深刻さがある分野ですので貴重な本です。
 
ルポルタージュという分野は著者がどれだけその取材対象にどっぷり浸かるかが面白さに関わってくると思っているのですが、その意味でこの本の取材姿勢はすごい。
そして重ねてすごいのはその「浸かり具合」自体は文章には表れておらず、非常に冷静な第三者の視点を貫いた上で語られていること。この辺りのバランス感覚も素晴らしい。
 
ちなみに、どっぷり浸ることは良いルポの条件だと思っていますが、その一方で書きぶりを冷静に書くことについてはそれだけが方法というわけではないとも思っています。私が福祉分野のルポルタージュで素晴らしい作品だと思っている『こんな夜更けにバナナかよ』も、自分自身が介助のボランティアグループの一員にも入りながら取材していた力作でしたが、『夜バナ』の語り口は第三者視点とは真逆のものです。著者自身がいちボランティアとして、取材者として見聞きしたものへの「戸惑い」や「悩み」「苦しさ」などを隠さずに表明している本で、その吐露自体が素晴らしい傑作です。
(『こんな夜更けにバナナかよ』については以前にレビューを書いていますので良かったらご覧ください)

 

22minutes.hatenablog.com

 
本書では『夜バナ』のような慎さん自身の「想いの吐露」のようなものはあまり強くは表されません。もちろん「個人的な見解」として慎さん自身の考えや感想は多く書かれていますが、その視線はあくまで冷静であるように感じます。それは慎さん自身のキャラクターもあるのかもしれませんが、ある程度意図的にコントロールされた書きぶりなのではないかと思っています。
 
本書のテーマである「児童相談所」というのは「叩かれやすい」立場にあります。
 
児童虐待の件数が増える中で、残念ながら子どもが死亡するケースも後を絶ちません。
そしてその中には、「児童相談所には相談されていたのに児童相談所側に深刻なケースと受け止めておらず見落とされたとされるケース」や、「児童相談所の勤務体制が過酷なものとなっているために対応しきれなかったケース」などが報道されることも少なくありません。
 
児童虐待という問題は、簡単にその原因を特定することができません。
虐待をしてしまう親の背景には、様々な社会課題が複雑に絡まり合っています。
そうした中で児童相談所はある意味分かりやすく責任を追求しやすい存在になってしまいやすいのではないかと思います。
 
児童相談所は虐待等の問題の「発生後」に対応をしている機関であり、十分に、そして適切に対応されていたとしても虐待の根絶自体とはまた別問題であるにも関わらず、そのような傾向が少なからずあるのではないかと感じています。
 
帯に力強く「告発では、解決しない」と書かれている本書からはそのような風潮にも一石を投じる強い意思を感じます。
(ちなみに児童相談所に関する書籍を探すと同じく新書で『告発』と冠した本が見つかるのですが、そちらに向けてのメッセージでもあるのでしょうか。帯のキャッチ誰が書いたものか分からないですけど)
 

児童相談所とはどんな場所か」は業界関係者ですら知らない

 さて。本書が児童相談所を冷静な視点で語るということが貴重なアプローチであることを指摘しましたが、世間一般で児童虐待関連に興味を持っている人に限らず、児童相談所は子ども支援の分野で活動している業界関係者ですら知らない人が多いといえます。
 
私自身、子ども支援の分野である程度活動をしてきた一人です。
児童養護施設に学生時代に4年間ボランティアとして関わり、そのうち3年間はその施設の非常勤の職員としても働いていました。その後社会人になってからも4年ほどNPOの活動で児童養護施設に関わり、複数の施設でのボランティア活動に関わりました。
また、学生時代には児童養護施設でのボランティアの他、ボランティアコーディネーターとしても活動をしており、子ども支援、子育て支援(親支援)、教育分野など関連する分野には直接・間接様々に関わってきました。
そして、今現在はNPOコンサルタントとして働いており、子ども支援関連の団体の支援をすることもあります。
 
こうした活動歴を持っていても、児童相談所のことはほとんど知りません。
私自身の業界への関わりが十分なものなのか、という点は難しいですが、児童相談所について知らない子ども支援業界関係者は少なくないと感じています。
 
児童相談所についてはそれぐらい情報がありません。
ですので、この本は業界関係者にとっても貴重な一冊であるといえます。
 

良い一時保護所と悪い一時保護所

前述の通り非常に冷静で丁寧な書きぶりの本書ですが、複数の児童相談所に取材した結果分かったこととして、児童相談所には「良い一時保護所と悪い一時保護所がある」と断じています。
その違いはあまりに大きい。少し引用させていただきましょう。
 
良い一時保護所では、良い学習支援員を採用しています。最も多く、かつうまくいっているケースは、引退したベテラン教員を採用して、その人が子どもの学力に合わせてかなり細やかに問題を準備していました。学校の学習環境には劣るものの、最大限の努力がなされています。
 
抑圧的な一時保護所では、人間は教育と養育によって成長するという認識が欠けているような気がしてなりません。前者を担う組織の代表格は学校、後者のそれは家庭です。学校などの教育現場においては、規律に基づいたある程度強権的な制度があり、子どもたちはそれに従うことを学びます。これはこれで重要なことで、規律を遵守するという思考回路がこの時期に成立していないと、その後の社会生活では様々な苦労をするからです。また同時に、この規律お中で子どもたちは学習をし、知識を得ていきます、ハードとソフトという区分けをするのならば、教育は子どもの成長に置いて、ハードの側面であるということができるでしょう。一方でソフトの側面を担当するのが養育です。養育は多くの場合家庭において行われ、そこは規律よりは自由、命令よりは受容が重視される場所です。(多少のしつけというものがされてはいるものの、養育環境においては基本的に子どもを受け入れる大人の存在があり、その中で子どもが愛着関係を築き、自己肯定感を育んでいく事になります、ドストエフスキーが最後の大作である『カラマーゾフの兄弟』において、「誰かに大切にされた経験はどんなに辛いことでも生き抜く力になる」といったことを書いていますが、まさにこれを言い当てています。)教育と養育は子どもの成長における両輪であり両者がバランス良く存在してこそ、人は本当の意味で成長をします、しかし、抑圧的な一時保護所では、生活のすべてが規律によってコントロールされており、教育はあっても養育の観点は感じられません。そこでは子どもが安心を感じることはできないのではないかと思います。
 
私は児童養護施設での学習支援に携わってきましたが、児童養護施設にいる子どもたちの多くは学習遅れの状態にあります。
ほとんどの子どもが自分の学年からマイナス1〜3学年は当たり前で、中学生や高校生の年齢であってもかけ算九九ができない、ということも残念ながら珍しくありません。
 
施設にいる子どもたちの多くが学習遅れになってしまう最大の原因はもちろん困難な家庭環境にあります。
学校に通うことが十分にはできていなかったり、ひどい場合には生きる死ぬといった環境にいて、文字通りの意味で勉強どころではなかったという子どもたちが多い。
ただ、遅れを発生させてしまう原因は家庭での養育の不十分さだけではありません。
 
子どもが保護された場合に最初に行くのが児童相談所内にある一時保護所です。子どもが家庭に復帰することができるのか、できないのであればどこでその子を養育するのかそうしたことを関係諸機関や親等が協議している間に一時的に子どもを保護する場所です。「一時的に」とはいっても、長い場合この期間は数ヶ月に及びます。また、この一時保護所にいる期間は外出が原則的に禁止され、当然学校にも通うことができません。親から強制的に隔離して保護している場合もあるため、子どもの安全を守るというのがその理由です。
 
そして措置が決り、施設への入所や里親家庭へ行ってからやっと学校に通うことができますが、ほとんどの場合転校を伴います。数カ月ぶりに行ける学校は全く知らない場所であり、学習進度もズレてしまいます。過酷な環境から開放された子どもたちがそのような環境で自律的な学習意欲のみで遅れを取り戻すというのはなかなか無理がありますし、学校現場も、そして施設も多忙を極める中で一人ひとりの子どもの学習遅れに適切なサポートをすることは難しいのが現状です。
 
こうして、一時保護所を経て措置された子どもたちの多くが、(保護前には比較的学校に通えていたとしても)構造的に学習遅れが発生しやすい状況にある、というのが現在の日本の社会的養護の実際です。
 
このように構造的にはある程度の理解をしていましたが、本作を読んで一時保護所での状況にここまでの差があることに改めて考えさせられました。
 
では、なぜこのような格差が生まれるのか。慎さんは規律的な一時保護所ができあがる理由について3点挙げています。
 
  1.  一時保護所には、非行、被虐待、精神障害の三種類の子どもが入ってくること
  2.  職員数の少なさ
  3.  そもそも職員が子どもの状況について想像力を持っていない場合が多いこと
 
職員の数が少ない中で、多種多様な事情を抱えた様々な状況の子どもが入ってくるために管理的な要素が強くなりやすい、ということは理解はできます。ただ、では十分に対応ができるだけの職員数を確保すれば良いのかというと3点目の理由が厳しいですね。
 
職員はいつでも外に出ることができ、一時保護所にいる時間は生活の一部でしかないのに対し、子どもは寝ても覚めても一時保護所内でのみ時間を過ごしているという点と、職員はルールをつくり遵守させる立場にあるのに対し、子どもはそれに従う立場であるという点に代表されます。
 
看守と囚人の役割を与えるとその役割に沿った行動をしてしまうというスタンフォード監獄実験を連想してしまうのは行きすぎでしょうか。
この3点目に対する施策として児童相談所に勤める職員は研修として3週間程度子どもたちと同じ生活を送ってみるということを提案しているのが、慎さんらしい。自身が児童養護施設児童相談所での職員としての泊まり込み取材をしているため説得力のある提案です。
 

子どもの権利を第一に

うまく行っている施設もうまくいっていない施設も取材し、そしてうまくいっていない原因についての考察も行った上で、最後のまとめとして現実的に一時保護所を改善していくためにどうすれば良いのかいくつかの方策を提案されています。
ここでは個人的に特に気になった提案を3つ紹介いたします。
 

①一時保護委託を増やす

児童相談所内の一時保護所で子どもを預かるのではなく、なるべく地域の中で子どもを預かれるようにすべきだという提案
 
児童養護施設や里親家庭などへ一時保護を委託することで、児童相談所内の一時保護所で必要以上の規律の中で子どもたちを管理する必要がなくなります。また、一時保護所にいく子どもたちは現状「神かくし」と言われる状態になってしまうことが少なからずあり、その問題を解消することもできます。
 
どういうことかというと、虐待等が通告され、家庭から保護された場合に、そのまま一時保護に入り、措置が決定するまで(場合によっては数ヶ月)外出ができなくなってしまいます。
 
前述の通り親から強制的に保護している場合もあり、子どもの安全のためという名目はありますが、近所の人や友だちや学校にも挨拶することもできないまま環境から切り離されてしまい、地域の側からすれば子どもがある日突然神かくしのように消えてしまうというような事態が発生していまし、保護児童としてもその状態のまま見知らぬ場所での生活を始めなくてはいけないということは必要以上に精神的な負担を強いていることでもあります。
 
こうした措置は子どもたちの意志や権利を尊重したものとはいえず改善すべきである、というのが慎さんの提案であり私も同感です。
 
地域内の施設や里親家庭に一時保護を委託することができれば、そこから学校に通うことができ、子どもに愛を持って接する養育環境としても環境が整っているといえます。(児童養護施設についてはまだまだなところもありますが)
 
また、児童の親の立場を考えても、子どもが急にいなくなってしまえば「あの家は子どもを児相にとられた」と地域内でのスティグマにつながってしまう可能性もありますが、地域内での一時保護委託が可能になると子どもは地域内である程度それまで通りの生活をすることができ、「子育てが一時的にキツい」という状況をより柔らかく伝えていくことができるのではないか、と慎さんはいいます。地域内で実際にどのように受け止められるかというのは実際には地域の事情にもよるのだろうと思いますが、少なくとも私が知っている複数の児童養護施設が一時保護委託先になった場合を考えると、十分に可能性はあると感じます。児童養護施設の中には地域の子育て支援センターを併設している施設もあり、子育て支援という文脈で施設と地域が関係を構築できている場合もあるからです。
 

②子ども支援の各セクターの連携

2点目に挙げられるのが子ども支援の各センターの連携です。特に一時保護委託先となる施設と児童相談所の連携について、本書では鳥取県内の事例が紹介されています。
 
鳥取こども学園では、児童相談所の所長経験者らが職員となって働いており、そのために児童相談所ととても強い関係性をもって一時保護委託を実施しています。園内には一時保護委託に特化した部門が存在しており、一時保護期間が長くなりそうな子どもいついては、鳥取子ども学園で保護するという機運がたっています。
 
特定のケースについて各セクターで情報共有を密にすることで連携がスムーズになるという事例は子ども支援の現場だけでなく、学校教育、高齢者福祉や医療等他の分野でも聞く話です。例えば学校内の職員間で子どもの授業態度や生活態度のケース共有を行うことで、学習遅れやその他の子どもたちの変化に早急に対応することができ、学力の向上や不登校の減少などにつながったという事例もあります。複数の関係者が事情を把握しておくことは、急な変化にも適切にフォローをし合うことにもつながります。もちろん、なかなかそれが簡単なことではないからこそ、良い事例としてニュースになるという側面もあると思いますが、紹介されている鳥取の事例のように児童相談所の所長経験者の活用など、ベテラン・シニア人材の知見を活用して全体をよりスムーズになるように考えていく、という方向性は今後特に対人支援に関わるさまざまな分野で必要になると感じます。
 

③外部監査の必要性

最後の一つが外部からの視点を取り入れるということです。良い対応を行うことができていない施設がなぜそのような状況が常態化してしまっているのかという点に対する慎さんの回答がこの外部監査です。
 
児童相談所に限らず行政組織一般に地域間格差が生まれやすい背景として、外部の目によるチェック体制が少ないことや、ガバナンスの弱さ(ここでいうガバナンスとはパフォーマンスを適切に発揮しない人材を罷免する力のこと)を指摘しており、適切な情報公開をすることや、②の各セクターとの連携とも合わせて児童相談所だけに子どもの問題を一極集中させないことが必要であるとしています。
 
適切な権限や専門性を持った組織の必要性に異論はありませんが、一極集中させることが外部の目の届きにくさにもつながっていくという指摘はまさにその通りであると思います。
 
 
慎さんの提案を見ていて感じるのは日本のソーシャルセクターでも最近よくいわれるようになってきた「コレクティブインパクト(集合的な課題解決)」の重要性です。
ただ、コレクティブインパクトというのは簡単なことではありません。
慎さんの現実的で前向きな提案を見て改めて、しっかりとしたコレクティブインパクトが1個1個丁寧に作られていく必要があると感じました。
 
かなり長くなりましたが、以上『ルポ児童相談所』の書評でした。
 
ちなみに。子どもの問題は社会的養護という範囲だけでも本書のテーマである児童相談所にとどまりません。
著者である慎さんが以前書いた記事がすばらしくまとまった記事を書いていらっしゃるので興味をお持ちの方はぜひお読みください。
 
また、慎さんのその他の著作もオススメしたいものが多いです。ここでは本書のテーマに関連する本として2冊をご紹介。 
働きながら、社会を変える。――ビジネスパーソン「子どもの貧困」に挑む

働きながら、社会を変える。――ビジネスパーソン「子どもの貧困」に挑む

 

児童養護施設に住み込んだときの話はこちらの本に書かれています。プロボノやボランティアとしてNPOに関わることを考えている方にオススメです。

 

未来が変わる働き方 (U25 SURVIVAL MANUAL SERIES)

未来が変わる働き方 (U25 SURVIVAL MANUAL SERIES)

 

こちらもプロボノに関する本です。プロボノ希望の方にもおススメしますが、プロボノからの支援を求めたいと考えているNPOの方にもぜひ読んで欲しい。プロボノマネジメントについて考えるヒントが詰まっています。

  

 

LIFE SHIFT時代のニッポンについて考える本 − 『LIFE SHIFT』について語るときに僕の語る本 ④

『LIFE SHIFT』について考える記事第4弾。いったんこれで最終回です。
 
第1弾 

第2弾

第3弾

 
第1弾で『LIFE SHIFT』について要約を行った上で、第2弾では「マルチステージの人生」を考えるための前提となる「働くこと」について考えるヒントとなる本を、第3弾では働き続けるために不可欠だが盲目的に働くことで損なわれてしまう可能性のある「活力資産」を貯める生活とはどんなものかを考える本を、それぞれ紹介しました。
 
これまでの記事では個人の視点から『LIFE SHIFT』について考えたいポイントについて述べてきました。第4弾となる本記事では少し視点を変え、『LIFE SHIFT』時代の日本社会とはどういうものか、私たちが人生100年を生きる社会の姿を考えるためのヒントになりそうな本について考えてみたいと思います。
 

『LIFE SHIFT』は万人に向けた本だろうか?

個人的には『LIFE SHIFT』で語られることは自分自身がすでに実感していたこととも近く、腑に落ちる本でした。「人生100年」がすべての人に訪れるわけでないとしても、少なくとも「働く期間の長期化」は起こってくるでしょうから、なるべく多くの人に読んで欲しいと感じています。
 
ただ、一方で本書全体に対して感じる違和感というか、冷めた視点も同時に持っています。身も蓋もない言い方をしてしまえば『LIFE SHIFT』は「意識高い系」の本です。
 
「意識高い系」という言葉はまったく好きではありませんが、ポートフォリオ・ワーカーとかインディペンデント・プロデューサーとか言われても「そんなのはできる人だけの話だ」と冷笑とともに切り捨てられてしまったり、場合によっては反発や対立を引き起こしてしまう危うさもあると感じています。
 
また、対立以前の問題として、そもそも『LIFE SHIFT』が警鐘を鳴らすような社会環境の変化に関心を示さないとか、理解できない層もありえます。
 
商品購入やサービス利用に関する態度のスピードについて考察するイノベーター理論では、最も革新的なイノベーターから最も保守的なラガードまでの5分類が正規分布に近い形で分布している図がよく用いられており、普及の鍵をにぎるのは2番目に感度の高いアーリーアダプター層までのおよそ16%をつかまえることができるかどうかだ、とされています。
 
もし、社会状況の変化やそれに対する意識の変化についても同じような分布図があったとして、その分布は果たして正規分布になるのでしょうか。
また、アーリーアダプターは一体何%居て、その層に普及するだけでマジョリティまで広がっていくのでしょうか。
 
「意識高い系」の本である『LIFE SHIFT』は基本的にアーリーアダプターまでに訴える本だと感じています。
その後の普及は、『LIFE SHIFT』を読んだ層の実践を通してその周囲に徐々に普及していくものなのでしょうか。
 
そのスピードと影響力は、公的年金制度の崩壊や労働市場の変革など、既存の社会ルールが壊れていくスピードと比べてどちらが早いのでしょうか。
アーリーアダプター層の実践がさらなる層への普及にもしつながらないとしたら、『LIFE SHIFT』は社会のさらなる分断へとつながるのではないだろうか。
 
個人的な姿勢として『LIFE SHIFT』に感銘を受けながらも、こうした疑問は次から次へと出てきました。
 
例えば、『LIFE SHIFT』では変革を社会が受け入れていくために多くの若者の社会参加や政治参加が必要だとしていますが、それは現実的にはどのように可能でしょうか。
私自身普段NPO支援という仕事をしていて、社会参加や政治参加というものを間接的に促す立場いますが、「参加態度・意識の低い人の参加をどのように促すのか」というのは現場で頻繁に聞かれる切実な問題です。ただ、少なくともそこに明確な絶対解のようなものはないように感じています。もちろん分野や問題により成功している事例はありますが、万能の方程式で解ける範囲は広くはなく、あくまで個別最適解を探していく必要がある、というのが難しいところです。(だからこそ「自治」というものの必要性や面白みがある、ということも感じますが)
 
こうして「社会」について思考を飛ばしたときに出てくる答えの出ない問題に対して、それでも行動をしながら考え続けてきたのが第1弾の記事で書いた通り私のこれまでの道のりだったと思いますし、きっとこれからもそうして行くのだと思います。
 
以下で紹介するのは個人的に考えたり行動をする上でのとっかかりになると感じている本や資料です。本記事では特に今後の日本社会について考えるという観点から2つ選んでみました。
 

日本社会の今後について考えるきっかけに

経済産業省の「次官・若手プロジェクト」によって出された提言書です。
 
この65ページにわたるスライド資料が非常に話題になり、勉強会やワークショップなども催されています。
 
おそらくですが『LIFE SHIFT』も念頭に置かれており、人生100年時代というキーワードは随所に使われています。内容としては今後の日本社会の変化に対して様々なデータを引きながら解説するというもので、結論としてどうすべきかという点では以下三点にまとめています。
 
  1. 一律に年齢で「高齢者=弱者」とみなす社会保障をやめ、 働ける限り貢献する社会へ
  2. 子どもや教育への投資を財政における最優先課題に
  3. 「公」の課題を全て官が担うのではなく、意欲と能力ある個人が担い手に (公共事業・サイバー空間対策など)
 
全体で言われていること自体はそれほど新しい内容ではないという批判もあるようですが、経産省の「若手」による「自主プロジェクト」というあたりや、その打ち出し方は新しく、各方面で議論が巻き起こっている点も面白いですし、経産省の若手有志という方たちがどのように考えているのかという点もなかなか興味深いです。
 
この資料が結論としているのはつまりはどういうことを言っているのでしょうか。①や②はイメージのしやすい具体例であって、全体の方向性として③だよ!というのが言いたいのかな、というのが本資料を読んで感じたところです。
 
私自身NPO支援を仕事にしており「共助」の部分を厚くしていくということには方向性として賛成ですが「意欲と能力ある個人が担い手」になれるよう促すことは当然として、それにより国家は「公」の課題の重圧から逃れるということはないのであり、「民」や「共」をその言い訳や脅しのようにもし使ってしまっているとしたら怖いことです。(本資料がそこら辺どの程度意識しているのか資料からだけでは読み取れませんが)
 
本来議論すべきは「公」として「どこまでが国が守るべきラインなのか」について議論するということであると考えます。だとすると、こうしたプロジェクトに本来期待したいのはその部分についての国民議論を促すことだと思うのですが、やや炎上気味の反応も含めて受け止められていることで作者たちの思惑は達成しているのかな。どうなんでしょう。
 
少なくとも、リアルでの勉強会にまで一定のスピードで広がっていることや、本プロジェクトのFacebookページが立ち上げられ情報発信が続けられていることは価値あることと思います。
 
ちなみに。本資料をどう読み解くのか、議論すべき選択肢はどのようなものなのか、という点に関しては社会学者の鈴木謙介氏のブログ記事が分かりやすかったです。
 

 
 
続いて2冊目。
『縮小ニッポンの衝撃』
縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

 

 

昨年HHKで放送された同タイトルの番組を書籍化したものです。昨年の放送もかなり話題になっていましたが、その意欲的な内容にさらに追加取材を行ってまとめた一冊。強烈な内容に仕上がっています。
 
少子高齢化というキーワードは日本国民であればもはや聞き慣れた言葉となっていますが、それが進展するといったいどんな社会になって何がどう問題になるのか、具体的にイメージできる人はほとんどいないのではないでしょうか。
 
本書は、そのイメージをいくつかの自治体への取材を通して具体的にあぶり出すことを目的としています。本来はその処方箋まで描きたかったが、無理だったとエピローグに書かれていますが、そうしたネガティブな状況が日本全国どこにいても押し寄せてくるということを明確に示すために、一貫してネガティブな示し方に徹しているような印象も受けます。
 
ネガディブ・ポジティブの印象はともかくとして、少なくとも取材先である地域にとってはそれはすでに目の前に訪れている現実ですし、数字データと事例の合わせ技で語られる「縮小ニッポン」の姿は間近に迫ったこのままでは確実に訪れる将来の姿です。200ページ弱の本で一気に読ませる勢いがありますが、読んでいるうちに苦しくなりました。
 
『LIFE SHIFT』の著者であるリンダ・グラットンは「超長寿化」をLIFE SHIFT時代の前提だとしていましたが、超長寿を恩恵として受け取るためには個人として健康であり続けねばなりませんし、社会全体としての超高齢社会は社会にとっての負担増であることはこのままいけば厳然とした事実になります。行政サービスが縮小するということが私たち市民の生活をどのように変えるのか、すでに変わっているのか、まずは知り、想像してみることは大事な一歩だと思います。
 
そして、上述の経産省の若手ペーパーでも志向される「個による助け合い」の未来像がこの「縮小ニッポン」であるかもしれないという事実をどう受け止めれば良いでしょうか。LIFE SHIFT時代のマルチステージの人生を歩んでいくために「自分は何者か」というアイデンティティを明確にしておくことが必要だとされていましたが、視点を社会の側にも少し広げて「社会の中で自分は何者でありたいか」という点こそが考えるべき問いなのではないかなと感じています。
 
 
さて、以上で一旦終わりです。
 
 
社会について考えるためにも、自分について考えるためにも、色々と行動をして自分の目で見聞きすることが何よりですが、まずは本を読んで考えてみるというのも大切なことかと思いますので、今回の一連の記事で誰かの参考になる部分があれば幸いです。
 
ちなみに今回4記事にまとめましたが、他にもいくつか考えている視点がありました。いま読みながらあれこれ考えているのは、「小説からLIFE SHIFTを考えてみる」と「政治理論からLIFE SHIFTを考えてみる」ということ。小説の方は、「『地下室の手記』と『LIFE SHIFT』」で考えているのが個人的になかなか面白いなと思っているのですが、『地下室の手記』が全然消化しきれなくて文章にまとめられませんでした。政治理論の方は、新しく本を読んだり、大学時代に読んだ本を読み返したりしています。この辺りもまた少し考えが整理されたら文章にしてみたいと思います。
 
また、社会の変化というマクロ視点については今回は日本の文脈から考えましたが、世界全体の方から考えるというのも面白そうですし、技術の革新という方向から社会の変化を考えてみるというのも面白いと思っています。
 
ということで、特に全体を通してのまとめがあるわけではありません。
まだ考えながらの日々です。
 
縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

 

 

『100の基本 松浦弥太郎のベーシックノート』で活力資産を貯める生き方を考える − 『LIFE SHIFT』について語るときに僕の語る本 ③

『LIFE SHIFT』について考える記事第3弾。
 
第1弾では、『LIFE SHIFT』の要約をした上で、そこで重要なキーワードとなる「マルチステージの人生」に当てはめながら自分自身の人生の振り返りをしてみました。

 

第2弾では、マルチステージの人生の根底となる「働くこと」について考える際にヒントになる本を参照し、「自分」と「仕事」と「社会」をどのような関係で捉えられるかという部分がポイントになることを考えました。

 
先の2つの記事では主に「マルチステージの人生」というキーワードについて考えてきましたが、本記事では『LIFE SHIFT』において掲げられていたもう一つな重要なキーワードについて考えてみます。
 

「活力資産」は働くことで損なわれる?

『LIFE SHIFT』について考える上で重要なキーワードの2つ目は「無形資産」でした。お金などの有形資産だけでなく家族や友人、スキルや知識、健康といったものをいかに形成していくかが人生100年と呼ばれる長い寿命や、それによって延びる働く期間を渡りきるために重要であるということでした。そして無形資産は、生産性資産・活力資産・変身資産の3つに分けることができます。
 
3つの資産はそれぞれ以下のような定義でした。

生産性資産

仕事に役立つスキルや知識、仕事につながる周囲との人間関係や評判など仕事の成功に役立つ要素

活力資産

健康、友人、愛など、それぞれの人に肉体的、精神的な幸福感と充実感をもたせ、やる気をかきたて、前向きな気持にさせてくれるもの

変身資産

新ステージへの以降を成功させる意志や能力、多様性に富んだ人的ネットワークなど
 
個人的には特に考えなければならないのは「活力資産」だと感じています。
 
なぜ特に活力資産について考えなければいけないのでしょうか。
 
活力資産が重要で、他の二つがそうではないということではありません。
3つ全部重要なのですが、特に活力資産については意識しなければ貯めにくくなりやすいというのが、私のような小忙しく働く日本の若い世代に多く表れている状況なのではないかと感じるからです。
 
どういうことかというと、生産性資産と変身資産は仕事を通じて資産形成していくことがある程度以上可能であるのに対して、活力資産はむしろ仕事に埋没する中で損なわれていってしまうものだからです。
 
第2弾の記事で紹介した『自分をいかして生きる (ちくま文庫)』では
社会に寄った働き方をしていると自分自身との対話がとぎれ、感受性や感情回路の遮断はそのまま全人的な実感の喪失につながりかねない
と、肉体的・精神的にすり減りながら働くことについて考察しています。
 
マルチステージの移行をしながら長い労働人生を進んでいくことになるLIFE SHIFT時代においては、仕事によって有形資産(お金)を築いていくことも重要であると同時に仕事を通じて生産性資産や変身資産も貯めていかなければならないが、心身の健康など生きる上での幸福度に直結しそうな活力資産については働く(働きすぎる)ことにってむしろ損なわれてしまう危険性があるということです。
 
ではどうすれば良いのか。
 
身も蓋もない単純な言い方ですが、適度に働くということかと思います。働くことを含めた「生活」全体のバランスを取ることから考えていく必要があるのではないでしょうか。
 
そんなことを考えるときのヒントになる一冊をご紹介します。
 
100の基本 松浦弥太郎のベーシックノート

100の基本 松浦弥太郎のベーシックノート

 

 

『100の基本』とはどんな本か?

雑誌『暮らしの手帖』の編集長を長く務めた松浦弥太郎さんが、ご自身の生活の中で守っている「100個の基本的なルール」について書かれている本です。
 
友人との関係を具体的にどう考えているか。
生活の中でのどういうふるまいや時間の過ごし方を大切にし。
自分が生きているという実感をどのように感じ取っていくのか。
 
そんな生活の中で大切にしていることや気をつけていることが100個書かれています。
 
1ページにルールが一つ記載され、見開きで対になるページにはその簡単な解説という余裕のある装丁と合わせて、ゆったりとした丁寧な生き方を感じる本です。
 
例えば人との関係について。
幸せとは、人と深くつながること。絆を深めること。
「あなたにとって、幸せとは何ですか」、こう聞かれて即答できますか?僕たちはみな、幸せのために生きています。人と自分の幸せのために仕事をし、暮らしています。自分にとっての幸せを知るとは、自分が何を求めて生きているかを知ることです。僕の幸せは人と深くつながること。絆を深めることが一番の幸せです。その先に「幸せな景色」が見えているから、毎日一生懸命に頑張れるのです。
 
「働く」というキーワードに関連してはこんなルール。
働くために遊ぶ
「遊ぶために働く」というのは、ちょっと違う気がします。いい仕事をするには、よく遊ぶべきであり、遊ぶというのはいろいろな経験をするということです。経験を通して身につけた情報は、仕事にも役立ちます。仕事ばかりしている人より、充実した生活をしている人のほうがいい仕事ができ、思いやりや想像力も身につきます。一生懸命遊びましょう。「素晴らしい仕事をしているな」と思う人ほど、大いに遊んでいるものです。
 
仕事人間にはならない。生活人間になる
仕事をとったら何も残らないような人間にだけは、なりたくないと思います。たとえ仕事がなくても、生活を楽しめる人間でありたいと願っています。生活は、仕事を活かす土台です。「優秀だけど、休みの日に会うとつまらない」という仕事人間は、なんとも寂しいものです。
 
などなど。いかがでしょうか。
 

生活のバランスを取るとはどういうことか

人によっては「説教臭い」というようなことを感じる方もいらっしゃるのかもしれません。ただ、私たち一人ひとりが考えなければならないのは松浦さんの「基本」を真似をすることではなくて、自分なりの「基本」を考えてみることだと感じます。
 
先に生活全体のバランスを取ることが必要なのではないか、と書きましたが「生活のバランスを取る」とは必ずしも全員が同じような規則正しい生活を送ればいいと考えているわけではありません。バランスは人それぞれですし、バランスを取るというのは一点に定まることではなく、常に両側に揺れ続けることです(ちなみにこの言葉は第2弾の記事で紹介した『自分をいかして生きる』の中で著者西村さんが仰っていた言葉でもあります)。
 
『LIFE SHIFT』で紹介されるロールモデルの中にも、ステージによっては企業でハードワークをする時期も肯定されています。
 
生活全体のバランスを取るというときのバランスの揺れ幅だって人それぞれで良いというのがマルチステージ時代の多様性であり、「活力資産」の貯め方もまた然りということでしょう。
 
一口に活力資産といってもその要素は、「健康」「友人」「愛」など多岐に渡ります。何をどのくらい重視するのかも人によって変わる部分だと思いますが、「自分の人生において大切なのはどれだろう?」とストレートに考えていくのが難しい場合も『100の基本』のような本からヒントを得ていくということは有効なのではないかと思います。
 
以上、第3弾となる本記事では「活力資産」について考えました。
本記事までで『LIFE SHIFT』で掲げられる重要な二つのキーワードについて考えてきました。二つのキーワードについて丁寧に考えるということが個人の視点としてLIFE SHIFT時代を考える上で大切だと思います。
 
次回の記事では少し視点を変えて、社会全体の視点からLIFE SHIFT時代について考えて見たいと思います。
 
100の基本 松浦弥太郎のベーシックノート

100の基本 松浦弥太郎のベーシックノート

 

 

『働く意義の見つけ方』『自分をいかして生きる』で「働くこと」について考える − 『LIFE SHIFT』について語るときに僕の語る本 ②

『LIFE SHIFT』について考える記事第2弾です。
 
昨日の記事はこちら。

 

昨日の記事では『LIFE SHIFT』という本自体のまとめと、そこで語られる「マルチステージの人生」に照らしてこれまでの自分の人生を振り返ってみました。

今日からは、『LIFE SHIFT』の内容をより噛み砕いて考えていくために、私が参考にした本について書いていきます。

「働くこと」について考える

『LIFE SHIFT』を読んででまず強烈に感じるのは「働き続ける必要がある」ということです。もっといえば「自分の生活を成り立たせ続けるためには働き続ける必要がありそうだ」ということ。
 
日々の仕事に忙殺されすぎていたり、仕事の楽しさを見出しにくいという状況にいる人にとっては「働き続ける」というのは苦しい未来と感じるかもしれませんが、著者のリンダ・グラットンはそうではないといいます。自分が何者であり、何をしたいのかを見つめ、一人ひとりが自分の人生の舵取りをしながら関わり合う社会はより活力に溢れた社会であるといいます。
 
とはいえ、じゃあ実践してみようかというときにエクスプローラーとか、インディペンデント・プロデューサーとか急に言われてもなかなか具体的な一歩をイメージすることは難しいのではないかと思います。
 
ではどうすればいいのでしょうか。
 
マルチステージの人生を生きていくためのベースとして著者が指摘するのは「アイデンティティ」です。長い人生を主体的に生きるためには「自分が何者か」というアイデンティティをつねに意識することが必要だといいます。
 
「自分は何者か」
 
ストレートに考えるにはなかなか哲学的すぎる問題です。個人的には哲学するの好きですけど、働くということと合わせて考えるのであれば、いきなり自分に矢印を直接ぶつけるのではなく今自分がやっている仕事の方から考えてみる、というのも一つの方法ではないかなと思います。
 
「いま自分がやっている仕事は、自分にとって、社会にとってどんな意味があるのか?そしてそのことを自分はどう感じるのか?」
 
こうしたことを思考していくことによって「自分は何者か」という問いについても考えていくことができるのではないかと思います。
 
ということで、「働くこと」や「仕事」について考えるときのヒントになった本をご紹介。
 

まず一冊目。 

働く意義の見つけ方―――仕事を「志事」にする流儀

働く意義の見つけ方―――仕事を「志事」にする流儀

 

 

NPO法人クロスフィールズの代表小沼さんの本です。クロスフィールズというNPOは留職という「留学の仕事版」のような事業を行っているNPOです。(クロスフィールズさんのHPはこちら→(http://crossfields.jp/)日本の大企業で働く社員を発展途上国の現地NPOなどに派遣し、現地で働くことを通じて自分のプロフェッショナルとしてのスキルや姿勢で社会課題を解決にチャレンジする機会を提供するプログラムは、自分自身がプロボノとしてNPOと関わることで仕事のモチベーションを維持していたこと振り返ってみても貴重なプログラムだと感じます。
 
そんな事業に取り組むクロスフィールズの代表小沼さんがどのような経緯でクロスフィールズを立ち上げるに至ったか、留職という事業によりこれまでにどんなことが起こってきたのかということが描かれている小沼さんの自伝的な著作です。
 
  • 青年海外協力隊で働いたシリアの人たちから学んだ「社会とのつながりを持つ」という仕事の意味
  • マッキンゼーを経てクロスフィールズを立ち上げるまでの試行錯誤
  • 「社会を変える現場」経験を積むというクロスフィールズの留職事業の事例
 
『働く意義の見つけ方』というタイトルの通り、仕事の意義についてアツい小沼節で書かれています。(小沼さんのブログも大好きで、何年も購読しています。アツい小沼節についてはぜひブログをご覧ください→NPO法人クロスフィールズ 小沼大地のブログ
 
小沼さんがキーワードとしているのは「社会とのつながり」です。
「自分」と「仕事」と「社会」という3つが1本の線でつながっているような状態であることが理想の働き方だといいます。
 
「自分」と「仕事」がつながっているとは、例えば
自分がなぜ今の仕事をしているのかに対して、納得できる答えを持てている
 
「仕事」と「社会」がつながっている状態とは、例えば
目の前の仕事が誰かの「ありがとう」につながっていることを具体的に想像できる

 ということ。

 
この両方のつながりが実現できていてはじめて3つが結びついている理想の働き方であり、現在日本の多くのビジネスパーソン(特に大企業で「目の輝きを失って」働いている人)はこの社会とのつながりを失っているのではないかというのが小沼さんの問題意識であり、「社会を変える現場」を目の当たりにする留職事業はそんな状態に対して小沼さんが提示する解決策の一つです。
 
『働く意義の見つけ方』の中でもう一つ面白いと思ったキーワードは「青黒さ」です。
「青臭さ」と「腹黒さ」を組み合わせた造語で、もともとはリクルートワークス研究所が作った言葉だそうです。
 
小沼さん自身の言葉を少し引用します。
理想や夢、社会の不条理に対する義憤、自らの志といったものをエネルギーにして進む「青臭さ」と、時には根回しや上手い立ち回りもしながら、組織の中で物事を戦略的かつ用意周到に進めていく「腹黒さ」。この一見相反する要素を兼ね備えることこそが、日本社会、特に大きな組織の中でおもしろい何かを成し遂げる人に最も必要な要件ではないかと僕は思う。
 
これは大組織にいるときに関わらず、LIFE SHIFTでいうマルチステージの人生を立ち回っていくためにも非常に大事なことだと思います。
例えば、ポートフォリオ・ワーカーとしてプロボノなどの活動をする際、前提としてプロボノ先の団体に貢献するものでなければならないのは当然ですが、その活動を通して何を得られるか、得ようと思って活動をしているかという視点は重要で、ただ闇雲にプロボノをしていてもおそらく次のステージへの移行のタイミングは訪れないでしょう。
 
 
続いてもう1冊。 
自分をいかして生きる (ちくま文庫)

自分をいかして生きる (ちくま文庫)

 

 

2冊目は、働き方研究家という肩書きをもって活動する西村佳哲さんによる仕事や働き方について考える3部作の2作目。1作目の『自分の仕事をつくる』(自分の仕事をつくる (ちくま文庫))で行った「いい仕事」をする様々な方たちのインタビューを元に、西村さん自身が「いい仕事とは何か?」という問いについて思考を深めていく思索的な一冊です。1作目は就活中に読み、2作目である今作は就職後に読んだのですが、LIFE SHIFTについて考える際にこの本のことを思い出しひさびさに読み返しました。
 
そもそも仕事とはなんだろうか?という問いを丁寧に考えていく西村さんの記述を読みながら、自分なりにあれこれと考えていくのはとても気持ちの良いものでした。
 
西村さんは仕事の成果というのは海に浮かぶ島のようなものだといいます。
 
海上からはほんのすこししか見えないが、島は海の上に突き出た大きな山であり、下には見えない山裾がひろがっている。
 
水面に出ている「成果としての仕事」の下にある山はいくつかの階層に分かれており、上から<技術や知識>、次に<考え方や価値観>があり、そして一番下には<あり方や存在>があるといいます。
 
あり方や存在とは、
 
どんなふうに働いているか。どんなふうに生きているか。毎日の暮らしの中でどのような呼吸をして、食べ、眠り。何を信じ、恐れ。話したり、聴いたり。ほかの人々や自分自身と、どんな関わりを持って行きているかということ。<あり方>とは生に対する態度や姿勢で、そこに自分の<存在>が姿をあらわす。
ということ。
 
仕事とはそれらの山全体のことであり、モノであれサービスであれわたしたちは水面に出た成果としての仕事だけではなく、丸ごと全部を受け取っているのではないかといいます。
 
目の前の仕事すべてに自分の丸ごと全部をさらけ出していく、というのはある意味とても厳しい姿勢だとも思う。
それでもLIFE SHIFT時代を生き抜く姿勢というのはそういうことなんだろうとも思う。
 
エクスプローラーというのはまさに自分なりの考え方や価値観、そしてあり方なんかを模索するステージでしょうし、そのプロセスを経ずにインディペンデント・プロデューサーとして自分なりの仕事を生み出していこうというのもきっとどこか片手落ちな仕事になってしまうのではないかと思います。
 
社会とのつながりという点では西村さんは以下の様な図式を提示します。
 
<社会>ー<自分>ー<自分自身>
 
単に社会対自分という図式で捉えてしまうと、自分か社会のどちらか片方を大切にすると、残りのもう片方を大切にしきれないという状況も生じかねないといいます。
 
「本当はやりたくない」仕事をやらざるを得ないような時、自分の実感を感じていると、働きつづけるのが困難になる。こうした時、その耐え難さを味わう前に「ない」ことにして、とりあえず仕事をす付けるための心理状況が確保されることもあるだろう。<自分自身>に対する感受性にツマミがついていたら、それを0の側へまわして入力を絞るように。問題はこのツマミが、家庭用とか、仕事用とか、恋人用といった具合に細かく分かれていないことだと思う。個人的な経験からの見解だが、仕事における感情回路の遮断は、そのまま全体的な実感の喪失につながりかねない。こうした自己疎外の積み重ねが、場合によっては心身症や失感情症、適応障害抑鬱状態をも招いてしまうのではないか。真面目でかつ能力の高い人。つまり社会の各種矢印に対応出来てしっかり応じようとする人ほど、この困難さを抱えやすい。
 
その自分を、<自分>と<自分自身>に分けて考えると良いそうです。<自分自身>も<社会>もどちらも大切で、<自分>はその間で双方の調和や調停をとるのが仕事である、という図式で捉える、ということ。
 
小沼さんの「自分」ー「仕事」ー「社会」を1本の線でつなぐという考え方、
西村さんの「社会」ー「自分」ー「自分自身」という図式の中で仕事を捉えるという考え方、
どちらもとても面白いと思います。
 
私たちが学ぶべきなのは、これらの図式をがんばって頭に入れようとすることではなくて、「仕事」と「自分」と「社会」をどのように位置づけるかを自分の言葉で説明できるようになることなのだと思います。実感を込めた言葉で語れるように仕事をしていきたいですね。
 

以上です。

 

次の記事では、『LIFE SHIFT』でマルチステージの人生と並んで重要なキーワードとして掲げられていた「無形資産」について考えてみたいと思います。

 

【8/31更新】第3弾の記事を公開しました。

 

22minutes.hatenablog.com

 

 

 

働く意義の見つけ方―――仕事を「志事」にする流儀

働く意義の見つけ方―――仕事を「志事」にする流儀

 

 

 

自分をいかして生きる (ちくま文庫)

自分をいかして生きる (ちくま文庫)

 

 

 

『LIFE SHIFT』について語るときに僕の語る本 ① − 『LIFE SHIFT』のまとめと振り返り

今年の夏は意図的に予定を減らして本を読んだり、考えたりする時間を取るようにしていました。
 
自分で決めたテーマを元に色々なジャンルの本を同時に何冊も読みながら、そのテーマについてあれこれ考えてるというのが習慣というか趣味のようになっているのですが、今年は特に意図して決めたつもりではないのにどうしても引きつけて考えてしまう本があります。
 
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

 

 

昨年11月の発売から話題となっている本です。今年に入っても売れ続けており、各地で勉強会なんかも開かれているようですね。
私は年末年始の休暇中に著者の前作である『WORK SHIFT』(ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉)と2作続けて読みました。
 
いやもう本当に面白い。
これからの時代にとても大事な本だと思います。
 
ぜひ多くの人に読んで欲しいですが、個人的には特に教育に関わる人はぜひ読むべきだと考えています。
自分たちの目の前にいる子どもたちが大人になるとき、彼ら彼女らがいったいどんな時代を生きることになるのか、想像力を持って接するのが誠実な姿勢だと思っています。どんどん不確かさが増していく時代の中で、確かな将来を予想することは難しいですが、だからこそ一人ひとりが想像力を持っていくことは大事だと思います。で、『LIFE SHIFT』という本はその想像するという作業を行うための前提条件というか考えるヒントをくれる本ではないかと。
 
丁度昨年転職をして自分の仕事や人生について考える機会も多かったことから、自分のこれまでとこれからの歩みを『LIFE SHIFT』の文脈に照らして考えてきたのですが、なかなかすべてがストンと腹落ちするわけでもなく、未熟なりに模索している日々の道行きすべてが順調ということにも残念ながらなかなかなりません。むしろ日々の実践については泥沼かと思うほど、足取りは重いことが多いです。
 
それで色々な本を読みながら考え続けていたのですが気づけば今年も後半戦。そんなタイミングで東洋経済が『特集 LIFE SHIFT実践編』という特集号を出したことで、改めて同書自体について考える機会を得ました。
 
この雑誌を読んだことをきっかけに改めて『LIFE SHIFT』についての自分の考えを振り返りながら整理したのですが、今回は『LIFE SHIFT』に関連して読んだ本と一緒に整理してみたいと思います。
基本的に自分の考えの整理のための記事ですが(なので恐ろしく長いです)、LIFE SHIFT時代の日本社会についてや、自分自身のLIFE SHIFT実践についてモヤモヤと考えている誰かのヒントにもなれば幸いです。
 

LIFE SHIFTとはどんな本か

 
さて、前置きが長くなりましたが、まず『LIFE SHIFT』とはどんな本かを簡単に。
 
著者のリンダ・グラットンがまず前提として指摘するのが「超長寿化」です。
2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107歳まで生きると予想されています。
多くの人が100歳を超える人生を生きる時代が到来するというのです。
 
そしてこの「人生100年時代」がもたらすのは「働く期間の長期化」です。
これまでの時代であれば、「学ぶ・働く・引退する」という3ステージで人生を構成すればよかったのに対して、長寿化により延びる「引退期」を支えることが難しくなっていきます。引退期間が伸びればその分必要な貯蓄は増えますし、なおかつ少子高齢化にともない公的年金制度には歪が入り受給年齢の引き上げや給付金額の切り下げが行われていきます。その結果、多くの人が働く期間を延ばす必要があるということです。
 
考えなければいけないポイントはまだあります。これまでの3ステージ型のライフスタイルであれば人生の前半の「学び」の期間に培ったスキルで労働市場に参入し、働きながら深めたスキルをもって約40年程度の労働人生を渡りきることが可能な場合が多かったのですが、今後現役として働く期間がが50年、60年と延びていくと、その間に当然に社会の変化が起こり、一つのスキルセットだけで労働人生を渡りきることは難しくなると、著者は指摘します。単純にいまいる会社で働く期間を何年か伸ばせば良い、という話ではないということです。少子高齢化を背景とする公的年金制度の崩壊や終身雇用制度の崩壊、AI等の技術革新による労働市場・環境の変革などすでに変化が見えてきているものだけでも、社会全体に、そして私たち一人ひとりに大きな影響を与えることが想像されます。不透明な時代を予想するのは難しいですが、少なくとも新卒入社した会社一社に勤め上げる社会人人生というのが社会のスタンダードではないということはいえそうです。
 
同書の中盤以降ではそんな「人生100年時代」を生きる私たちが意識すべきいくつかのキーワードを解説しているのですが、その中でも特に重要だと感じる2つのキーワードについて考えてみたいと思います。
 
まずひとつ目が「マルチステージの人生」
これまでの学ぶ・働く・引退するという3ステージが通用しなくなり、働く期間が長期化する時代においては、学びや仕事のステージをいくつも移行しながら、複数のキャリアを経験していく「マルチステージの人生」へとシフトしていくとのこと。
 
著者は新たに登場する具体的に3つの「ステージ」を紹介しています。
 

エクスプローラ

長期間の旅をするなど、日常生活から離れたところで経験を積み、人脈を広げたり社会に対する見聞を広める時期。
 

インディペンデント・プロデューサー

既存の企業など組織の枠から外れ、独立して生産的な活動に携わる時期
この時期の生産活動は事業の成功自体よりも、やりがいや人とのつながりを重視したものとなることが多いとのこと。
 

ポートフォリオ・ワーカー

企業勤め、副業、NPOでのボランティア、地域での活動など異なる種類の活動に同時にいくつも関わる時期。
お金ややりがい、人とのつながりなどの複数の目的に応じて活動をアレンジする生活となります。
 
3ステージ型の人生では、20歳前後で就職し、60歳程度まで働いて、引退するというライフステージに則り、同世代が一斉行進のように進んでいきましたが、マルチステージの時代においては明確なロールモデルを上の世代に求めることはできなくなり、年齢に関わらずステージを転身していくためより多様な生き方が実践されていくといいます。
 
そして2つ目のキーワードが「無形資産」です。
長く続くマルチステージの人生をしっかりと歩んでいくためにはお金などの有形資産だけでなく、家族や友人、スキルや知識、健康といった無形資産を築いていくことが不可欠だということです。
 
無形資産は次の3つに分類することができるそうです。
 

生産性資産

仕事に役立つスキルや知識、仕事につながる周囲との人間関係や評判など仕事の成功に役立つ要素
 

活力資産

健康、友人、愛など、それぞれの人に肉体的、精神的な幸福感と充実感をもたせ、やる気をかきたて、前向きな気持にさせてくれるもの
 

変身資産

新ステージへの以降を成功させる意志や能力、多様性に富んだ人的ネットワークなど
 
さらにその他にも、マルチステージの移行を促す要素がいくつか紹介されています。
 

アイデンティティ

長い人生を主体的に生きるために、「自分が何者か」というアイデンティティをつねに意識することが必要
 

リ・クリエーション(再創造)

余暇時間をレクリエーション(娯楽)ではなく、リ・クリエーション(再創造)に使うことが必要
 

夫婦の役割分担

夫婦共働きの家庭が増え、夫婦のいずれもがマルチステージの人生を歩んでいくために、いずれかが新しいステージへの以降をする際に互いの役割を調整し、サポートし合うことが必要
 
 
ここまでが、『LIFE SHIFT』で語られる内容についての非常にざっとしたまとめです。
先進国の中でもトップクラスに少子高齢化が進んでいる日本は特にLIFE SHIFTする必要性に迫られているといいますが、皆さんはどのように感じるでしょうか。
 
 
LIFE SHIFTについては東洋経済の特集号が日本の状況に照らして解説を試みています。同書のざっくりとした要約に加えて日本で様々なLIFE SHIFTの実践を行っている人たちの例をわりと多く載せているのでなかなか面白いです。ただ、現在の日本の状況をどのように捉えるか、その中で自分はどうあるべきかはまさに自分のアイデンティティに基づいて考えるべきだと感じますので、人の実践例を参考にするよりは未読の方はまずは原初を手に取り、自分はどこから考えたいかを感じてみることをおススメします。
 
とはいえ、分厚い本ではありますので、なかなか読む暇ないよ!という方でまずそのエッセンスだけを感じたい方は、以下のほぼ日の糸井重里さんと著者リンダ・グラットンの対談記事がオススメです。内容を簡潔に要約しつつ、糸井さんが良い感じに日本の文脈に照らした発言をしていて分かりやすかったです。
 

 
 

私はどんなライフステージ・ワークステージにいるか

 
さて、ここで少し私自身について書いてみたいと思います。これまでやってきたことをLIFE SHIFTの各ステージに則って振り返ってみます。
 

大学時代(2006年4月〜2010年3月):エクスプローラ

  • 筑波大学で社会科学を学ぶ。専門は地方政治
  • 課題活動でボランティア活動に従事
  • ボラティアセンターを学生団体で運営し、地域のボランティアニーズと学生のマッチングやボランティアコーディネートを行う
  • 児童養護施設での学習指導ボランティア。ボランティア先の施設では非常勤の職員も経験
  • つくば市市議会議員の元での議員インターンシップ、市民活動センターでのアルバイトなども経験
 
などなど、細かく書き出すとキリがないのですが、色々とやっていました。
「意識高いね」と言われることもよくありました。(当時は今ほど揶揄的な意味合いは少なかったように感じますが)
 
大学時代というのはLIFE SHIFT的な言い方をすると私にとって最も「日常生活から離れた」時期でした。
ほとんどの学生が大学の宿舎もしくは大学周辺のアパートで一人暮らしをするという筑波大学の環境は、4年間まるごと宿泊学習をしているような生活であり、それまでの人生と大きく変わった生活でした。
また、総合大学であることや課外活動が活発であることとも合わせ、友人や地域の人たちと非常に濃く関わることのできた4年間は私の人生の中でもとても大切な時間となりました。
 
多くの人と時間をともにしながら、一人旅や読書など自分一人での時間も贅沢に楽しむことのできた学生時代は私にとってはエクスプローラーの時期であり、この時期に考えたことや経験したことは現在の私の考えや仕事にも非常に大きく影響しています。
 
 

就職〜社会人6年間(2010年4月〜2016年4月):ポートフォリオ・ワーカー

大学卒業後、私が選んだのは楽天株式会社という会社への新卒入社の道でした。
学生時代にソーシャルセクターに関わる活動をしていたので、NPOへの就職ということも考えたのですが、まずは企業での就職を選びました。
 
なぜその選択をしたのか色々と理由はあるのですが、ソーシャルセクターに関わるのであれば自分なりの武器を身につける必要があるというのが大きな理由であり、当時私が武器として考えたのは「ビジネス」と「インターネット」でした。そんなことを考えながらリーマンショックの余波を食らった就活市場を漂っていた私がたどり着いたのが楽天という会社でした。
 
楽天では新規事業開発系の部門にて主に広告関連のサービスを担当していました。
そして、楽天に勤めていた6年間の間に、会社の外でも様々な活動を行いました。
 
  • NPO向け寄付サイトの立ち上げ
  • 児童福祉分野で活動するNPOでのプロボノスタッフ
  • IT/Web関連の中間支援プロボノNPOの立ち上げ
 
などなど。
将来的にソーシャルセクターに関わることを考えていたのでそのお試し的な活動に様々に挑戦していました。
また、自分自身のスキル磨き用にWordPressでサイトを作ってみたり、ブログを書いてみたりといったこともいくつも取り組んでいました。このブログもそのうちの一つです。
 
こうしてシンプルに文字に書いてみるとすっきりとしたものですが、色々と悩みながら迷いながら本業を含めた一つ一つの活動に向き合っていたのが実際です。
楽天という会社が本業だったので、当然にフルタイム(残業も決して少なくはない)です。『LIFE SHIFT』でいうポートフォリオ・ワーカーというのはもう少し自由度の高いアレンジなのかもしれませんが、現状日本企業に勤めながら実践するポートフォリオ・ワーカーとしては「平日日中フルタイム&平日夜と土日でプロボノ」というのはもうしばらくは現実的で有効なあり方なのではないかと思います。副業を認めている会社も増えていますし、どんどんこの動きは加速していって欲しい。
 
 

社会人7年目〜(2016年5月〜):インディペンデント・プロデューサー

そうした悩みながら進む時期を経て、ついに昨年転職。30歳になる年でした。
株式会社PubliCoという会社に昨年5月に入社し、現在も勤めています。
 
NPOやソーシャルビジネス、自治会など公益的な活動をしている組織に対するコンサルティング支援やセミナー等を行っている会社です。
組織のビジョン・ミッション作りやファンドレイジング(資金調達)の支援といったテーマを扱う他、特に個人的には前職のスキルに関連してWebマーケティングやWebディレクションなどをテーマとした支援に取り組んでいます。
 
ここまでのストーリーだけ見るとなかなか順調に進んできて、きれいにオチがついているような感じもありますが、一人前のプロとしてソーシャルセクターで食べていくというのはなかなか簡単なことではないと感じながら、模索する日々が続いています。
『LIFE SHIFT』について改めて考えるという時間を取ってみて、いまこの時期を自分のインディペンデント・プロデューサーの時期であることを改めて認識し、より実験的なチャレンジをしてみようと最近の関心事を整理し直しているところです。
 
以上、自分のこれまでの歩みを『LIFE SHIFT』のマルチステージに当てはめて振り返ってみました。
ここからはそんな自分なりにLIFE SHIFT的な歩みをしてきた自分が、同書を読んで感じたことや、それを元にさらに考えるためのヒントにした本を紹介していきます。
 
長くなったので続きは記事を分けます。
  • 「働くこと」について考える本
  • 「活力資産」を貯める生き方について考える本
  • LIFE SHIFT時代をマクロ視点から考える本

の3つに分けて更新する予定です。

 

【8/29更新】続きの記事を公開しました。

 

第2弾 

 

  

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

 

 

 
 

2016年読んで面白かった本10冊

2017年一発目の投稿は昨年のまとめから。


昨年は自分の読書のテーマである「他ジャンルを幅広く」があまり実践できなかったのでまとめ記事やらないつもりだったのですが、2014年、2015年とせっかく続けていたので書くことにしました。

 

昨年「幅広く」本を読むことができなかったのは転職を機にインターネットや広告といった仕事関連の本を読むことが多かったためです。
もちろん技術系の本にも面白かった本はたくさんあるのですが、そうした本は対象読者が限られてしまうので対象外としています。
今年は昨年よりも少なめの全10冊(10作品)。「小説・エッセイ以外」「小説・エッセイ」の二つのカテゴリに分けていて、順番は基本的に読んだ順、発売年は昨年とは限らないという点は過去のまとめと同様です。

 

過去のまとめ 

 

 

 小説・エッセイ以外

まずは小説とエッセイ以外の本から。技術系の本は外したのですが、それでも仕事に関係する本が多くなりましたね。転職して仕事で関わる分野が広がった、ということもありますが。

 

はじめてのGTD

全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術

全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術

 

 年初に読んだ本。GTDは就職した年に部署の先輩に薦められて『ストレスフリーの仕事術―仕事と人生をコントロールする52の法則』を読んでいました。考えることややるべきことが山積みで混乱しているときに改めて、ということで読みました。非常に良い本です。「マルチタスクの重要性」ということが語られることの多い時代ですが、向き不向きはあるにしろ根本的に人間の脳みそはマルチタスクには向いていません。というかコンピュータだって「同時進行する」という厳密な意味ではマルチタスクはやっておらず計算処理を淡々と切り替えながら実行しているわけです。で、そうした切り替えをするときに大事になるのが「今何をするべきか?」という問いを立て、それにきちんと答えるということを続けられるかどうかということ。GTDというのはそれをうまくやるためのシステム作りの本です。単なる心がけの話ではなく、デジタルあるいはアナログの外部装置をうまく利用しながらやるんですよ、という方法論を示してくれます。新しい仕事にも慣れ始め、仕事の仕方を改めていくところなのでもう一度読み返しながら自分のタスク管理をアップデートしたいと思います。

 

21世紀の貨幣論 

21世紀の貨幣論

21世紀の貨幣論

 

 帯に書いてあった“桁外れの知的衝撃!ジャレド・ダイアモンド級!"というキャッチコピーに笑いながらもまんまとハマって読んだ本。アホみたいなキャッチコピーだけどターゲティング上は正しいように感じるのが悔しい。読んだ感想としては「知的興奮」という意味ではジャレド・ダイアモンドに軍配が上がりますが、それでも面白い本であることは間違いない。貨幣の発達として多くの人の頭にある「経済は物々交換から始まり、規模が徐々に大きくなるに連れて、交換をより円滑に進めるための交換の手段となるモノとして貨幣が導入されていった」というのは誤っているというところから始まります。物々交換経済なんてなかった、と。では貨幣の歴史とはどんなものであったのか。貨幣とはどんな機能を持ち、現在考えるべきことは何なのか。ここ最近Fintechが話題になっているせいか貨幣にまつわる書籍も大量に出ていますが、本書は中でも非常に丁寧でオススメ。

 

あなたのまちの政治は案外、あなたの力でも変えられる

先日つくば市長選に当選した五十嵐立青さんの著作。私は筑波大学時代に、当時つくば市議会議員であった立青さんのもとで議員インターンシップを経験しました。ちょうど彼の2度目の市議選の際の選挙事務所スタッフとして様々なことを経験させてもらいました。そうした経緯があるのでどうしても身内褒めっぽくなってしまう部分はぬぐいきれないのかもしれませんが、それを思い切り差し引いても非常に丁寧で分かりやすい、ぜひ多くの人に読んで欲しい一冊です(ステマではないです)。日本では「政治」というとどうしても遠いものと感じてしまう人が多いのではないでしょうか。少しぐらい関心を持っていてもニュースや新聞で語られていることは難しくて分からない、自分が関わることのできるものだなんて考えられない。そうした声を周囲の友人からも聞きます。本書はそうした方に対し、「政治への関わり方」を物語調に丁寧に伝えていきます。トランプ大統領が誕生する今年、"グローバリズムからグローカリズムへ"というのは今年大きなテーマの一つとなるでしょう。日本でも地方創生をはじめ”地域”や”まち"が見直される年になることと思います。私たちの身近な"まちの問題”や"暮らしの問題”にどのように関わっていけば良いのか、ぜひこの本を読んで考えてみてほしいです。特に街づくりや地域おこしということに関わる方は必読です。

 

新版 図解・問題解決入門―問題の見つけ方と手の打ち方

新版 図解・問題解決入門―問題の見つけ方と手の打ち方

新版 図解・問題解決入門―問題の見つけ方と手の打ち方

 

 コンサルタントに転職してすぐに読んだ本。コンサルタントの仕事というのはまさに「問題解決」です。入門と冠される本ですので非常に分かりやすいですが、書かれていることは非常に本質的。「問題とは理想と現実のギャップである」このことを知ることが、非常に重要。コンサルタントも基本的にこの原則から思考を始めることになります。そしてこのことを考える上で必要になるのが「目標ととなるあるべき姿とは何か」や「現在の状態の正しい把握」です。ロジカルシンキングの得意な人が「定義付け」から議論を始めるのはこの思考様式が染み付いているからです。不確定性の多い時代にあっては、「問い」や「理想」を自ら設定する力というのがますます必要になっていきます。最初の一冊にぜひどうぞ。

 

働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀

働く意義の見つけ方―――仕事を「志事」にする流儀

働く意義の見つけ方―――仕事を「志事」にする流儀

 

 この年末年始の読書で最初に読んだ一冊。大企業の社員を途上国のNPO等に送り込んで社会課題の解決に取り組むという「留職」というプログラムを提供しているクロスフィールズというNPOの代表小沼大地さんの著作。2016年最後に読んだ本にしてアツくなる一冊でした。「自分」と「仕事」と「社会」の3つが1本の線でつながっている状態が「働く意義を感じている状態」という定義は非常に納得度が高いです。「社会を変える」ためには想いの力が根底にあること非常に重要ですが、実際にことを成すには青臭い想いだけでは不十分で、戦略的に物事を進めていくある種の腹黒さも必要不可欠。つまり、青臭さと腹黒さをあわせた「青黒さ」とも呼べる力が大切だ、という言葉も非常に同感。2017年は働き方革命も大きなテーマの一つになるでしょう。このテーマを考える際に単に労働時間という視点からだけ考えるのではもったいない。多くの人がやりがいをもって充実した仕事を行っていくために何を考えなければいけないのかアツく、分かりやすく書かれています。おそらく私がこれから会う友人たちに進める機会の多くなる一冊です。

 

 

小説・エッセイ

続いて小説・エッセイから5作品。2016年はこの他に吉川英治三国志を読んだり、電子書籍で安売りしていたのに飛びついて買った昔読んだライトノベルスレイヤーズ)を読み返してみたりと、長編をけっこう読んだ年でしたね。

 

精霊の守り人守り人シリーズ

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)

 

 全10巻+短編集ということでわりと長いシリーズですが一気に読み切ってしまいました。世界観の作り込みが本当にすごい。昔からファンタジー小説が好きで、ライトノベル含めいろいろと読んできましたが、個人的な好みでは圧倒的一位を奪取する作品となりました。神は細部に宿るなんていいますが、料理や服装といった背景となる文化的な部分などストーリーの本筋に直接は絡まない部分の作り込みが本当に素晴らしく引き込まれます。料理に至っては作中の料理に関する本も出ているぐらいです。いやもう本当に美味しそうなんです。そしてもちろん宗教や政治といった本筋に関わる部分も素晴らしいですし、魅力的なキャラ、戦闘シーン等の描写もとてもうまい。著者の上橋さんは文化人類学者であり、アボリジニの研究などをなさっています。そうした研究の成果が作品作りにもふんだんに活かされており、楽しみながらも考えさせられる部分も多い作品です。チャグムが主人公となる「旅人」の2作品が特にお気に入り。大人にも子どもにもオススメ。

 

セルフ・クラフト・ワールド(1〜3)

 「異世界転生」系の作品を意識的に多く読んでいる中で見つけた作品。いろいろ読んだ中でも特に面白かったです。「セルフクラフト」というヴァーチャルMMOを舞台としたお話で、ゲーム世界のAI生物「G-LIFE」が自律進化を初め、その生物的機能の応用を現実世界に持ち込むことで技術革新が大きく進み、ヴァーチャルゲームの世界は国際競争や国力維持のための重要資産となった、、というような背景で繰り広げられるSF作品です。AIやロボットの自律進化という点もゲーム世界への転生も珍しい設定ではないですが、本作品が面白いのは「民主主義」がテーマとなっている点。言うなれば”AI民主主義SF”。そんなキャッチコピーじゃ誰も読まないでしょうけども。ブレグジットやヒラリー敗北など、従来の流れではあまり考えられなかったような結果が「民主主義的に」出てきて社会システムの綻びが感じられる昨今、民主主義について改めて考えてみる際に小説を読んでみるのも面白いと思います。邪道と感じる方もいるかもしれませんが、SFを題材に未来について考えるというのは、実は非常にシンプルに考えるべきポイントを強調してくれるので面白いと思います。

 

人生なんて無意味だ

人生なんて無意味だ

人生なんて無意味だ

 

 タイトルそのままのド直球のニヒリズムを突きつける児童書。子どもも大人も読むべき。特に日本では大人がこの本を子どもに読んでみなさい、と言える勇気を持つことができるかどうかというところですね。難しいと思いますが。「命を大切にしなさい」とか「人にやさしく」とか「夢を持て」とかいくら学校で言われたところで、子どもたちが片手に持つスマホを覗けば、「死にたい」という悲痛な声に「じゃあ死ねよ」という回答がベストアンサーに選ばれるような剥き出しの悪意(書き手本人は悪意とすら思っていない可能性があるのがまた質が悪い)に触れてしまうのが現在の子どもたちの日常です。どう生きるべきかなんて大人だってわからないし、不安に思っているのだから、だとしたらせめて「分からないということ、不安があるということ」をありのままに伝えるというのが真摯な行いだと、個人的には思います。

 

 

樅ノ木は残った 

樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)

樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)

 

 山本周五郎の3大長編の一つ。おそらく周五郎の長編では最も有名な作品なのだと思いますが、周五郎を読み始めて約10年でやっと読みました。昔NHK大河ドラマでもやっているそうですね。話の主軸はお家騒動ですので、騒動自体が起こるのは当然終盤、それまでは地味な裏工作が続くのですが、そんなテーマでどうやって一年続けたのか気になります。従来悪人と考えられていた原田甲斐をお家騒動の汚名を自ら被った悲劇の名臣として新視点で描くという試みがなされている作品で、周五郎は何人か同様のことを試みていますが、どれも面白いです。周五郎作品の大きなテーマとして感じるのが「克己」なのですが、世間に悪人と見られている人物が内面でどんなことを考えていたのかという視点はこの「克己」ということが非常に考えやすくなる視点なのでしょう。周五郎の長編作の主人公の生き方は非常に自律的で厳しいものが多い。本作の主人公の甲斐もそうです。その姿勢は3大長編で徐々に強化されていきます。個人的な好みでは『虚空遍歴』、『ながい坂』、『樅ノ木は残った』の順なのですが、周五郎の長編作をどれか一作だけ読みたいと言われたら『樅ノ木は残った』を薦めます。主人公の姿勢と歴史解釈への問いかけ、そしてエンタメ感が一番程よいバランスで実現している作品ということで。

 

走ることについて語るときに僕の語ること

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

 

 村上春樹によるランニングに関するエッセイの名著。先日レビューを書いたばかりなので詳しくはそちらで。 

 

 


以上です。少しでも誰かの読書欲を刺激できたら幸いです。


今年はまた幅広いジャンルを読んで自分の思考を作っていきたいです。
レビューもなるべく書いていきたいと思っていますのでどうぞ宜しくお願い致します。